中小企業診断士が語る!知れば得するノウハウ集

松平 竹央

皆さま、こんにちは。一般社団法人城西コンサルタントグループ(JCG)の松平です。

今回(第10回)は、中小企業診断士による無料の経営診断サービスの制度およびその仕組みについてご紹介します。
経営診断では、文字通り企業の健康診断に相当する範囲すなわち「診断」まで行うケースだけでなく、抽出した課題を解決するために踏み込んだ提言を行うケースもあります。

Vol.10 中小企業診断士による無料の経営診断サービス

1.経営診断のプロセス

一般的に、中小企業診断士が行う経営診断は次のようなプロセスで進められます。

経営診断のプロセス

主に、経営診断を行う側が何をするのかという視点で経営診断のプロセスについて説明します。

(1)経営診断に関する合意形成
経営診断を実施する前段階のプロセスです。まず、経営診断を行う企業の診断・支援ニーズを確認します。その上で時間的制限事項等を踏まえ、経営診断の成果として何を求め、そのために企業側からどのような情報を提供して頂くか、実施スケジュールをどうするかといったことについて、予め合意を形成しておきます。

(2)企業概況の把握
経営診断を行う企業の特性、経営状況等を把握します。また、経営診断を行う企業の財務諸表等から得られる経営指標を把握します。

(3)経営環境分析
経営環境分析は、大きく、外部環境分析と内部環境分析の2つに分けることができます。
まず、外部環境分析としては、経営診断を行う企業を取り巻く環境を、政治、経済、社会、技術といったマクロな切り口と、顧客、競合といったミクロな切り口から分析します。
内部環境分析としては、その企業の経営資源、業務プロセスなどを分析します。
経営環境分析を行うに際しては、経営者ヒアリングをしたり店舗や製造現場を視察したりしますので、経営環境分析を適切に行うためには、経営診断を行う企業側の理解と協力が欠かせません。

(4)経営課題の抽出・優先度の整理
経営診断を行う企業の現状を踏まえ、あるべき姿を明らかにした上で経営課題を抽出します。さらに、それらの課題について重要性や時間的な優先度を整理します。

(5)課題解決策の提言
上記の課題を解決するための方策について提言します。必要に応じて、利用可能な中小企業支援施策(補助金・助成金、専門家派遣制度等)をご紹介します。
なお、例えば事業計画を有さない企業に対しては単に事業計画の策定を推奨するにとどまらず、具体的な事業計画書の案を示すところまで踏み込んだものとする場合があります。

2.専門家相談・派遣制度の活用

本コラムの第8回で、外部の専門家を無料または格安で活用する方法をご紹介しました。経営診断を受ける目的でも、こうした制度が利用できる場合があります。

3.東京都「中小企業活力向上プロジェクト」

この制度が利用できる企業は東京都内に事業所を持つ中小企業であることなどが要件となっています。
本制度につきましては、専用のWebサイトで詳しく紹介されていますので、本コラムでは割愛します。
自己診断を行うことができるツールなども紹介されており、比較的簡素な経営診断を手軽に実施できる制度となっています。

4.中小企業診断士の「実務従事制度」

今回のコラムでは、主にこの制度についてご紹介します。
この「実務従事制度」は、主旨としては中小企業診断士がスキルを維持・向上し、国家資格を更新するための要件を満たすための制度であるため、一般的にはあまりPRされていません。しかしながら、場合によっては経営診断を受けた経営者の方から、「相当に高い対価を支払うに値するものだった」と喜んで頂けるほど有用なものとなることがあります。

(1)「実務従事制度」の概要
経営コンサルタントの国家資格「中小企業診断士」には、5年に1回の更新手続をクリアするために、5年間で5回の経営診断実務を行わなければなりません。
しかしながら、企業に勤務している中小企業診断士にとりましては、経営診断実務を行う機会を自力で作りだすことは容易ではありません。そこで、「実務従事制度」において「指導員」の資格を有する独立している中小企業診断士が経営診断のニーズがある中小企業を探索し、経営診断案件(実務従事案件)を用意します。その案件への参加を希望する中小企業診断士は、所定の参加費を支払って経営診断実務の機会を得るとともに、自己の実務スキルの維持・向上を図ります。
実務従事案件の責任者であり、指導員となる中小企業診断士は、その案件に参加する中小企業診断士に対して指導を行いながら経営診断を実施します。
一方、その案件において経営診断を受ける中小企業に対しては、無料で対応します。これが 「実務従事制度」 の仕組みです。
この制度を使うことで、中小企業者の方に無料の経営診断を行うことが可能なのです。

実務従事制度

(2)経営診断を受けるメリット
この「実務従事制度」を利用した場合に限るものではありませんが、経営診断を受けることのメリットとしては次のようなものがあります。
・様々な経営課題の優先度が明らかになり、課題解決のための提言を得ることができます。
・経営に役立つ情報やデータが報告書にまとめられます。
・客観的な立場の者からの質問や指摘により、「気づき」を得ることができます。

(3)「実務従事制度」による経営診断の留意点
「実務従事制度」を利用した経営診断において留意すべき点としては、次のようなものがあります。
・対象となる事業者は、常時使用している従業員数が4名以上という要件があります。
・参加メンバーとなる中小企業診断士が経営診断の対象事業者の事業領域に関する知見に乏しい場合が
あります。
・各案件への中小企業診断士の応募が芳しくない場合には、延期または中止となります。

総じて、「実務従事制度」は経営診断を受ける企業側と、案件の責任者・指導員となる中小企業診断士との間で、すでに一定の信頼関係が構築できている場合にお勧めできる制度です。
見方を変えますと、「実務従事制度」を利用する前の段階で経営診断を受ける企業側と案件の責任者・指導員となる中小企業診断士とで十分なコミュニケーションをとり、相互に信頼関係を構築しておくことが肝要です。

(4)「実務従事制度」による経営診断のプロセス
次の図に、「実務従事制度」による経営診断のプロセスを示します。

「実務従事制度」による経営診断のプロセス

1つの案件につき原則最大6名の中小企業診断士を募集してチームを編成します。そして、各中小企業診断士は6日という実働時間を用いて経営診断を行います。参加する中小企業診断士の多くは企業に勤務しているため、勤務先の休日となる週末に経営診断実務を行う時間を割り当てることになります。このため、経営診断が開始されてから終了するまでに目安として2ヶ月程度要します。
なお、経営診断を実施するに先立ち、指導員を含め参加する中小企業診断士の全員が記名・押印した秘密保持誓約書を提出します。

(5)事例紹介
筆者が指導員を務めた「実務従事制度」によるA社の経営診断の事例を紹介します。

A社の経営診断事例
業種 機械卸売業
所在地 埼玉県
従業員数 5名(パート含む)
経営診断の実施期間 約2ヶ月
ご提供頂いた情報 直近3期分の決算書、商品に関するパンフレット、 顧客との取引に関する情報等
参加した中小企業診断士 6名
経営診断テーマ 経営戦略の再構築と事業計画策定
報告書の主な内容 経営環境分析、財務分析、マーケティング調査情報、 各事業の収益性・成長性評価、経営課題、 経営戦略・事業計画(案)に関する提言、 顧客開拓の方策、Web活用策

A社では、主力事業である環境関連機器の卸売業のほか、健康食品販売事業、美容関連商品販売事業などいくつかの事業を行っていました。
A社の収益状況、財務状況はともに芳しくありませんでした。状況をより正確に把握するため、財務諸表や取引に関する情報を分析し、各事業の収益性を評価しました。その上で、収益性の悪い事業を整理し、収益性の改善が見込まれる事業に経営資源を重点配分することを提言しました。また、事業計画書の案も合わせて提示しました。

そこで、評価試験を要しない新規の顧客を開拓することを、具体的な顧客層を示しつつ提言しました。
そうした内容を盛り込んだ経営診断報告書を、成果物としてA社に提出しました。
この経営診断の終了後、A社では、経営診断の提言内容と報告書で示した事業計画書の案を利用する形で「小規模事業者持続化補助金」を申請するための事業計画書を作成し、この補助金を獲得することができました。
そして新規顧客開拓のための販促資料作成、Webサイトで使う動画作成等を行いました。その後、個人経営の飲食等の店舗がA社にとっての新たな主要顧客になりつつある状況となっています。

さて、皆様の企業におかれましても、こうした無料の経営診断の活用をご検討されてはいかがでしょうか。前回のコラムで紹介しました、「中小企業等経営強化法」に基づく「経営力向上計画」の策定を、今回ご紹介しました「実務従事制度」による経営診断で取り組むテーマの1つとして位置付けることができるかも知れません。

 

「中小企業診断士が語る!知れば得するノウハウ集」バックナンバーコーナー
一般社団法人城西コンサルタントグループについて

一般社団法人城西コンサルタントグループ(JCG)は、中小企業診断士を中心に、税理士、社労士、弁護士など100名を超える会員で構成している経営コンサルタントのグループです。

中小企業庁認定の経営革新等支援機関として、中小企業・事業者様の創業、経営革新、経営改善、補助金申請支援、事業承継等のお手伝いをしております。

JCG Webサイト:http://jcg-net.com/
お問い合わせ先:info(アット)jcg-net.com (「アット」は「@」に置き換えて下さい)

出展のご案内

ページ上部へ戻る