中小企業診断士が語る!知れば得するノウハウ集

勝亦 健雄

皆さま、こんにちは。一般社団法人城西コンサルタントグループ(JCG)の勝亦です。

今回は、職場におけるメンタルヘルス対策の重要性と実施方法について紹介します。「働き方改革」が国を挙げて推進されつつある中、最近では、電通の新入社員が過労による精神疾患が原因で自殺するという痛ましい事件がありました。これを機に自社の労働環境を見直すきっかけにしてみてください。

Vol.13 中小企業こそ知っておきたいメンタルヘルスケアとストレスチェック

1.企業リスクとして心の健康

2015年12月から、労働者が50人以上いる事業所において、毎年1回のストレスチェックを全ての労働者に対して実施することが義務付けられました。根拠となる法律は、2014年6月に改正された労働安全衛生法です。この改正に至った背景には、メンタルヘルス不調者の増加の問題があります。厚生労働省の調査によりますと、仕事上で強い悩みやストレスを抱えている労働者の割合は、毎年5~6割で推移しているそうです。また、平成27年度「過労死等の労災補償状況」では、精神障害を事案とした請求が過去最高の件数に達し、問題の深刻さをうかがわせています。

表1:精神障害に係る労災請求・決定件数の推移

(出所)厚生労働省:平成27年度「過労死等の労災補償状況」より著者作成

このような経緯から、今まで努力目標であったメンタルヘルス対策の実施を義務化することによって、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止するとともに、検査結果を集団的に分析して職場環境の改善につなげる、というのがストレスチェック制度の狙いです。

「でも、それは50人以上の事業所の話でしょ?うちは50人未満だから関係ないんじゃない?」と思っている事業者の方もいらっしゃるでしょう。しかし、このストレスチェック制度は、労働者50人未満の小規模事業者に対しても努力義務として実施することが求められています。そうでなくても、精神障害による労災認定も増えていることから、企業規模の大小にかかわらず補償や損害賠償のリスクは高まりつつあります。さらには、従業員の飛び降り自殺によって物件価値が下がったとしてビルの所有会社から訴えられた入居企業が、裁判所から賠償を命じられるという事例も発生しています。(毎日新聞 2016/8/8)。小規模事業者といえども、このようなリスクに備えて日ごろから従業員の心身の健康に配慮する活動が必要であると言えます。なお、前述の記事では社員の自殺理由について触れていませんが、2015年の自殺に関する統計では、「被雇用者・勤め人」で原因・動機を特定できた自殺者7,305人のうち、「勤務問題」を原因・動機とした人は1,800人(約24.6%)にのぼったという結果が出ています。

2.メンタルヘルス対策の進め方

何らかの問題や課題に対処するためには、中長期的な視野に立って計画を立てることが必要です。これはメンタルヘルス対策についても同じことが言えます。厚生労働省は「労働者の心の健康の保持増進のための指針」の中で、メンタルヘルス対策の考え方や進め方について言及しています。

メンタルヘルス対策を推進するための計画は「心の健康づくり計画」と呼ばれています。この計画を作る際には、下記の事項を盛り込む必要があります。

  1. 事業者がメンタルヘルスケアを積極的に推進する旨の表明に関すること
  2. 事業場における心の健康づくりの体制の整備に関すること
  3. 事業場における問題点の把握及びメンタルヘルスケアの実施に関すること
  4. メンタルヘルスケアを行なうために必要な人材の確保及び事業場外資源の活用に関すること
  5. 労働者の健康情報の保護に関すること
  6. 心の健康づくり計画の実施状況の評価及び計画の見直しに関すること
  7. その他労働者の心の健康づくりに必要な措置に関すること

計画の具体的な内容については、それぞれの事業所の実情に合わせて策定することになります。実行可能な計画にするためには、職場の実態をできるだけ正確に把握することが必要です。従業員の意見を取り入れつつ、衛生委員会等において十分調査審議を行ないながら計画づくりを行ないましょう。衛生委員会の設置義務のない50名未満の事業所では、主だった社員でプロジェクトチームを作って取り組んでもよいでしょう。

計画が出来上がったら、今度はその内容の実践に移るわけですが、メンタルヘルスケアには「4つのケア」と呼ばれる進め方があります。

一つ目は、「セルフケア」です。これは、従業員が自らのストレスに気づいて自分でストレスをコントロールするというものです。二つ目は、「ラインケア」です。これは職場の管理監督者が、部下の状況を日常的に把握することを通じた異常の早期発見、相談があった際の対応、職場復帰支援等を通じて個々の従業員をサポートする方法です。三つ目は「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」です。これは、産業医や衛生管理者、人事労務管理スタッフ等の事業所内の専門家がセルフケアやラインケアが効果的に実施されるように、従業員と管理監督者に対して支援を行なうことを指します。四つ目は「事業場外資源によるケア」です。職場が抱える問題や求めるサービスによっては、外部の専門家の手助けが必要な場合があります。そのような時に備えて事業所外の医療機関や保健機関とネットワークを日ごろから築いておくことで、より充実したケアを行なうことができます。

これら4つのケアを体系的に組み合わせて、継続的かつ計画的に実施していくことになります。しかし、何の手がかりもなく行なうことはできませんので、事業主としては①メンタルヘルスケアに関する教育研修・情報提供を、管理監督者を含むすべての従業員に行なうこと②職場環境等を的確に把握して改善に努めること、が求められます。なお、メンタルヘルスケアの実施にあたっては、個人情報の保護にも配慮する必要があることを留意して進めてください。

図:事業場におけるメンタルヘルス体制例

(出所)(独法)労働者健康福祉機構「職場における心の健康づくり」より著者作成

3.公的支援とメンタルヘルス対策の本当の目的

以上、メンタルヘルスの現状とケアの方法について語ってきました。しかし、実施義務がなく人材が不足しがちな小規模事業者にとっては、取り組むにあたって難しい点もあるかと思います。

そんな小規模事業者を公的にサポートする制度も用意されています。専門スタッフの活用については、地域産業保健センターの職場訪問産業保健相談の登録制度があります。この制度に登録しておくと、センターの医師が事業所を個別に訪問して、産業保健指導や健康相談、職場改善のための指導や助言を行なってくれます。

また、ストレスチェックの実施については助成金が用意されています。これは、1従業員あたり500円を上限に実施費用の支給が受けられる制度です。また、ストレスチェック後の面接指導等にも助成制度がありますので、詳しい内容は労働者健康安全機構または最寄りの産業保健総合支援センターに問い合わせてみてください。

参考URL

【個別訪問による産業保健指導の実施等】
http://www.johas.go.jp/sangyouhoken/tabid/333/Default.aspx

【「ストレスチェック」実施促進のための助成金】
http://www.johas.go.jp/sangyouhoken/stresscheck/tabid/1005/Default.aspx

メンタルヘルス対策には義務的な要素を感じる方も多いと思いますが、メンタルヘルス対策を打つことの本当の目的は企業の生産性を向上させることです。従業員が仕事にやりがいを持っていきいきと働ける環境があることは企業に活力を与えます。ただでさえ経営資源に限りがある中小企業にとって、人材は貴重な資源です。希少な資源を有効に活用するという観点からメンタルヘルス対策を実践することをお勧めいたします。

 

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